二見 それや、仕込みやうで、どうにでもなりますわ。飼主次第ですわ。 念吉 よし、仮りに僕の仕込方が優柔不断であつたとしよう。それならそれで、せめて、見場だけでも、もうちつと好くなくつちやね。なるほど、あいつには、面白いところがある。しかし、これは飼つてみないとわからない。僕は別段、あの犬に愛想をつかして殺してしまはうと思つたわけぢやない。こんな飼ひ方をするくらゐなら、飼つておかない方がいゝと思つたまでだ。あの犬を余所へやることは、流石に僕も気がつかなかつたよ。あ、帰つて来た。ペス! ペス! (彼はいきなり立上がり、椽側に出て犬を呼ぶ、それから、下駄を穿いて庭伝ひに犬をつかまへに行く)ペス! こゝへ来い。(やがて、犬の首環をつかまへて小屋の前へ連れて来る)こら、ペス! もうちつとほかに遊び方はないかい。靴が面白けれや、おれの靴があるぢやないか。余所の鶏なんか追つかけずに、そろそろ女友達でも作つたらどうだ。 二見 (チヤブ台の前にすわり)そんな気の利いたことができるもんですか。 念吉 おい、台所の棚をみてくれ。鎖はあそこへ置いた筈だ。 二見 夜は何処へも行きやしませんよ。 念吉 いや、朝、いはかれるのを待つてやしまい。何んでもいゝから持つて来てくれ。 二見 (台所から鎖を持つて来る)あとでよく手を洗つて下さいね。 念吉 気の毒だが辛抱しろ。そのうちにまたいゝこともあるだらう。 彼は犬を縛り終ると、膳に向ふ。箸を取上げる。すると、その時、百瀬鬼骨が半死半生の牝鶏を小脇にかゝへて玄関に現れる。 阿佐ヶ谷 歯科
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