不善の行為は

不善の行為は適ま不善の実象を現ずるに過ずして、心の上にあらはれたる一黒点に外ならず。不善の行為を廃めて善の行為をなすも亦た、心の上にうつりたる一白点に外ならず。共に心の上にあらはるゝものにして、心ありて後に善もあり不善もあり、心なければ何を悔改むるところとせむ。 　心こそ凡てのものを涵する止水なれ。迷ふも茲にあり、悟るも茲にあり、殺するも仁するも茲にあり、愛も非愛も茲にこそ湛ふるなれ。ヨハネの所謂悔改とは、即ち心を直くするにあり、ヨハネの所謂道を備ふるとは、即ち心を虚うするにあり、心を虚うする後にあらざれば、真理は望む事を得べからざればなり。基督教に於て心を重んずる事斯の如し。唯だ夫れ老荘の、心を以て太虚となし、この太虚こそ真理の形象なりと認むる如き、又は陽明派の良知良能、禅僧の心は宇宙の至粋にして心と真理と殆一躰視するが如きは、基督教の心を備へたる後に真理を迎ふるものと同一視すべからず。 　以上は「心」に就きて説きたるまでなり、いでわれは是よりわが感得したるところを述て、心宮内の秘殿を論ぜむ。被リンク