まつのの去つた後、念吉、黙つて玄関から上にあがる。 念吉 (座敷に現れ)さ、おろしてくれ。 二見 (座蒲団の上に甲吉を寝かせ)今頃寝てくれちや困りますわ。 念吉 よつぽど草臥れたんだ。それに近所を一軒々々尋ねて歩いたんだからね。空地といふ空地も見て歩いた。ところで、靴つていふものは、割合落ちてないね。しかし、なかなか思ひ掛けないものが棄てゝあるよ。 二見 (子供に掛蒲団をかけ終り)靴も靴ですけれど、今の話はどうしませうね。 念吉 向うの云ふとほりにするほかないさ。鎖は、何処へしまひ込んだかなあ……。 二見 それほどにして飼つておく犬ですか知ら……。湧山さんがあんまり御自慢をなさるもんで、子供が生れたら一匹下さいつて、なんの気なしに云つてしまつたんですわ。初めのうちは甲吉も悦びましたけれど、近頃では、丸で見むきもしませんよ。かまつてやらないせいもあるでせうけれど、毛は汚れ放題、虫はたかり放題で、その上、意気地がないことゝ来たら、余所の犬を見さへすれば、どんな犬にでも尻尾を垂れちまつて、いきなり降参の恰好ですもの。連れて歩くんだつて、こつちが羞かしいくらゐですわ。 念吉 君はさういふ風に、さも自慢らしくペスの悪口を云ふが、そんなら僕が警察へ引渡さうつて云つた時、頑強に反対したのは誰だい。一歩譲つて獣医にモルヒネを注射して貰はうと提議しても、君は、僕の前に立ち塞つて、如何にペスが泥棒の用心になるかを力説した。 二見 ですから、何処かで貰つてくれゝば、すぐにでもやりますわ。 念吉 あの犬をかい。いきなり降参の恰好をする犬をかい。日本語 Made in Japan PR
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